3 『源氏物語』の巻名はだれがつけたものか

『源氏物語の謎』増淵勝一 著 - 国研ウェブ文庫

結論から先に述べると、『源氏物語』の巻の名は作者の紫式部自身がつけたものです。
根拠の一つは、「手習」の巻に、横川の僧都の妹尼らの住む小野の草庵について、「かの夕霧の御息所(みやすどころ)のおはせし(イラッシャッタ)山里よりは、今すこし(奥ニ)入りて」とあります。御息所は天皇のお子さんを生んだお妃を言います。夕霧は天皇ではありません。したがって「夕霧の御息所」というのは、「夕霧」の巻に(出て来る)御息所という意味になります。実際「夕霧」の巻には夕霧が恋をした落葉の宮(女二の宮)の母である一条の御息所が出て来ます。「手習」の巻ではるかに前に出て来る御息所を「夕霧」の巻のと言っているのですから、原作にすでに巻名がついていたことになります。

  もう一つの根拠は、『源氏物語』の冒頭の巻々の名は、二巻で一対の命名になっているということです。「桐壺」と「帚木」、「空蝉」と「夕顔」(はかない動物と植物)、「若紫」と「末摘花(紅花)」、「紅葉賀」と「花宴」、「葵」と「榊」(神聖な草と木)、つぎの「花散里」のあとの、「須磨」と「明石」。こういう二巻で一対の命名法は、たとえば人物造型においても、光源氏と頭中将、夕霧と柏木、匂宮と薫という対比描写がなされており、これと共通する手法で、紫式部の個性的な命名法であると考えられます。そこで『源氏物語』の巻名は執筆の最初から、作者の紫式部によって命名されたものだということができます。

『源氏物語の謎』増淵勝一 著 目次

  1. 『源氏物語』はいつ書かれたか
  2. 『源氏物語』はどんな物語か
  3. 『源氏物語』の巻名はだれがつけたものか
  4. 『源氏物語』の時代設定はいつか
  5. 光源氏に愛された女性の中で、一番しあわせだったのはだれか
  6. 『源氏物語』の伝本にはどんなものがあるか
  7. 『源氏物語』の三大滑稽人物とはだれか?
  8. 『源氏物語』という書名ははじめから付けられていたものか?

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